近大通信 司書課程

2020年3月司書資格取得。

課題解決支援サービスについて【3】提案

福島県立図書館を見学してのレポートの後半です。自分が考える実現可能なサービスについてです。

 私は2つ挙げましたが、最初の案は、1回目のレポートでは却下だったので、2回目は全く別の内容にしました。2つ目の案は、2回目のレポート提出時まで時間をかけているうちに新たなニュースが報道されたので、更新しました。

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 3  私が考えるサービス

1)避難した人の声を集める


   私は浪江町出身の友人がおり、平成25年から28年まで、年に一度、浪江町を訪れ定点観測してきた。例えばある壊れた家、いつまでもそのままだった。しかしある時更地になっていた。壊れたまま野ざらしという事実を直視するのもつらいが、更地になったのもまた悲しく、住民であればなおさらだろうと思った。そういう心の動きは、被災していない私などからは、到底知り得ない。しかし、語りたい人はいるはずだ。機会がないだけなのだ。


  図書館が、そこに一歩踏み込んでほしい。手記が来るのを待つだけではなく、集めに出向くのだ。まず、県内外の避難者に対する県からの定期通知に、図書館からのアンケートを同封する。避難時のつらさ、帰れない心のうち、故郷への気持ちなどを書いてもらったり、無理ならば語りを録音しに行く。詳しく語りたい方にはじっくり向き合い、胸の内を吐露してもらう。収集し記録したものを、帰還を迷っている人が読み合うようすることで、孤独が癒えるかもしれない。後世の貴重な財産になるだろう。

 

講評

・課題としての根拠データが不明。公共図書館新たなサービスを実施しようとすると、人員や予算の手当てを必要とし、その獲得には根拠を明確にした説明が重要。

・対象館は県民全体をサービス対象としている中で、東日本大震災福島県復興ライブラリーの資料収集も着実に行っており、資料数も毎日増加している。実現可能な新たな課題解決支援案を具体的に提示すること。

  これを読んで、この「語りの聞きとり」は却下だと即断しました。データはありません。私の思い込みです。私は以前、市のビジネス講座で、市内に避難してきている福島県民にアンケート調査をした際、語りたい人がたくさんいるのだと知った上での、今回の提案でしたが、なにぶん私の主観でしかありません。これでは、たとえ予算を上げても、議会でも否決されるでしょう。先生のご指摘の通りです。

 

それで、方針変更。とにかくこのレポートはデータが命なので、県や自治体のデータを調べました。ただし、国、県、自治体とで、避難者に関する数字は統一しておらず、かなり苦戦しました。福島県の避難者支援課にメールと電話で問い合わせても同じ結果でしたが、いろいろアドバイスをいただきました。「1つのページのデータを見ればそれがわかる」というようなデータでは、求める数値は出てこないと思ってよいかと思います。 

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1)県外に避難した子供の読書活動支援サービス

 

「子供たちの今と未来のための図書館」としては、手薄になりがちな県外に避難した子供に対し、特に手厚く支援していくべきである。

 

もともと人口減少傾向にあった福島県だが、震災による避難後の他県定住もあり、減少率は加速した。また、少子高齢化を裏付けるように、減少傾向は子供の数で顕著である。震災直前2011年3月1日から2018年3月1日の県人口減少率は8.16%(※2)だが、18歳未満人口は19.6%(※3)となっている。

 

このうち、県外に避難している18歳未満の数は、2018年4月時点で全体の2.78%の7575人にのぼる(※4)。避難には避難指示による強制避難と、放射線不安から多くは県外に避難する自主避難がある。特に、避難指示の出なかった自治体からの18歳未満の県外避難者数は4531人であり、県外避難全体の59.9%を自主避難者が占めると考えられる(※5)。特に、自主避難世帯に対する県の家賃補助が打ち切られ、ただでさえ孤立感を深めていると思われる。

 

県や市町村の広報、通知とともに、この「ライブラリー」のお知らせや本のリスト、県内の学校図書館に支援するような年齢に合った読書パックのリストを、県外避難世帯に定期的に同封することを提案する。身近な図書館による相互貸借の案内などを入れてもよい。子供宛てには、福島の今現在を伝えるような資料のほか、「福島についてや、それ以外でも何か知りたいことや悩みがあったら何でも書いてください」と返信封筒を同封する。「図書館はいつでもあなたを見守っている」というメッセージを、福島を離れた子供に伝えることが目的である。

 

参考文献

※2 福島県現住人口調査年報平成30年度版 市町村別人口動態

https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11045b/zinkounenpou30.html(20191228)

※3 市町村別18歳未満人口推移

(同上)

※4 東日本大震災に係る子供の避難者数調べ

https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21055a/kodomohinansya.html(20191228

※5 同上(20191228)

 

講評

東日本大震災後の状況を挙げた上で、案を提示している。

・避難者は北海道から沖縄まで分散しており、効果的な情報発信を検討する必要がある。 

 効果的な情報発信、これはネットでしょうか。ネットを利用しない方もおられます。やはり封書に勝るものはないと思います。

 

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それから2番目の提案は、1回目と2回目はほぼ同じです。第一段落目は、動きがあったので2回目になって付加しました。

1回目の際、講評で「新聞記事を挙げる際は、記事名を必ず記述する」とあったので(見出しのことかと思います)それも付加しました。

 

合格レポート

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2)処理水問題、考察の場を提供

 

 東京電力福島第一原発の汚染水浄化後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方法について、政府の有識者会議は2019年12月23日、海と大気への放出に絞った3案を示した(※6)。

福島民報社福島テレビとの共同県民世論調査(2019年9月 ※7)では、海洋放出反対38.4%、賛成30.3%、わからない31.3%だった。2018年9月は反対53.8%、賛成17.2%であり、放出賛成派が増えてきた。このデータ変遷等調査結果を「ライブラリー」内で掲示し、県民に考えてもらう機会を提供する。科学的側面、諸外国の扱い、風評被害が怖いので反対だという地元漁業や流通業界の主張、放出について独自見解を述べる著名人の意見など、各種資料を集める。さらに賛成、反対についてのシンポジウムを開いたり、学校の授業で取り上げるなど発展してもよい。地元県民が自ら考えることが大切である。

 

参考文献

※6 読売新聞朝刊2面「処理水『放出』政府報告書案」 2019.12.24 

※7 福島民報朝刊2面「トリチウム水の海洋放出『反対』38.4%、『賛成』30.3%」

 2019.9.30

 

原発の(汚染水)処理水問題は、いまだに、停滞しています。

 

【20201017追記】

 

政府が処理水の海洋放出を決めました。地方紙と全国紙の報道にズレがあり、全国紙を講読している私は、その報道を勤務館の地方紙で知りました。先出し報道を受けての官房長官言及となったようです。

 

昨今話題となっている学術会議問題騒動もそうですが、特にネット上で、保守VSリベラルと二項対立が深まることが多くなっています。この処理水の問題もそういう傾向にあります。政治的嗜好や直観で語られるため、本質的な議論から遠ざかっていきます。せっかく注目を集めているのにもったいないです。図書館なら多様な意見、根拠のある情報、過去や他国の事例を提示し、多くの人に考えてもらえるチャンスを提供できると思うんですが。。。

 

【20210420追記】

 

菅首相が、原発処理水を2年後に海洋放出することを表明しました。

翌朝、当館で購読する新聞を綴じる際、朝日、赤旗の一面が目に入りましたが、これは、この問題をずっと追っている福島人であり、図書館職という公的・中立な立場にいる私にとって、偏向報道にしか感じられず、由々しきことだと思いました。

 

これが福島県内の図書館であれば、「ちょっとこれ、どう思う」というような雑談ができますが、遠く離れた本市では、茶飲み話にしようにも、知らない人ばかり。誰ともしゃべりませんでした。

 

一部の人の声を切り取って、さも「福島県はみな怒っている」というような報道の仕方をやめてほしいです。「そういう意見がある人もいる」ということなのです。主語を大きくしないでもらいたいです。

 

赤旗、日経、福島民報、読み比べです。

www.jcp.or.jp

 

www.nikkei.com

news.goo.ne.jp

 

地元が不満に思っているのは「風評被害対策が遅い」ということのほうです。福島人が怒るとするなら、この処理水を、だれもひきとってくれないことなんですね。溜まり続けた暁にどうするのかの議論をせず、「放出するな」一辺倒では、あまりに無責任に見えます。

 

地元の理解」というのは、誰でも言えますが、本当にそれだけでしょうか?

地元が気にしているのは風評被害です。ですから、「国民の理解」が必要なのです。つまり、「処理水を流しても問題ない」というコンセンサスです。

 

【20230823】

明日、福島第一原発で出た処理水の放出が開始されます。

海底トンネルを使って、沖合1キロメートル、地下12メートルのところに放出します。

放出前には、トリチウム水を海水で薄め、国の排出基準(60000bq未満/1ℓ)の40分の一未満(1500bq未満/1ℓ)にするようです。初回分として、7800tを17日間かけて放出。今年度は3万1200tの予定。今現在、134万トン貯蔵しており、30年ほどかかるとのこと。

トリチウムはもともと、自然界にも存在しており、基準値以下の量なら放出しても人体に影響はありませんが、感情的に「イヤ」だという人が一定程度存在します。

先日、「そこまで言って委員会」にゲスト出演した辛坊治郎氏が、国かなんかの説明を受けた時、「じゃああなた、その薄めたやつを飲んでくださいよ」と言ったら「いや、それは勘弁してください」と言われた、という逸話を披露していましたが、この手合いがまさしくフウヒョウを公共の電波を使って垂れ流す行為と感じました。

(海水を、飲めと言われて飲みますか?原発からでなくても、工場から出た排水だって、飲み物ではないはずです)

 

いまだに「汚染水」を呼ぶ人たちもいます。

最近、勤務館で受け入れしていたら、岩波書店「世界」9月号で、木野龍逸(ライター) 「汚染水海洋放出は必要なのか」という稿がありました。

中国も「汚染水」と呼んでいますね。

 

震災後12年。廃炉のためには必要な処理ではないかと私は思っています。